ときめきパラノイア
***
あの角を曲がったら。
自転車のペダルを、
あと3回、ううん2回強く踏み込んだら。
人の少ない寂しい朝の住宅街を抜けて、
私の通うなんの面白みもない高校がすぐ見える。
たくさんの同級生や先輩たちが歩いている。
けれど、私が真っ先に見つけるのはいつもあの人。
(―――いた!)
思わずほころぶ口許を必死に結んで、
なんでもない顔しながらさっきよりも強くペダルを踏み込んだ。
私とは反対方向からやって来るあの人、
校門に入るところでちょうど向かい合わせになる。
気がはやらせるとタイミングがおかしくなるの、
彼はいつだって同じテンポで歩くから。
何週間もかけて計ったこのタイミング、
毎朝彼と同じ瞬間に学校に入ることができる。
冬はもうすぐそこで、ほんの少し息も白い。
頬が赤いのは、寒さのせいよ、貴方のせいじゃない。
「あ、香帆、おはよぅー」
「おはよう!」
友達に声を掛けられたって、私のタイミングはズレたりしない。
(先輩、今日からマフラーなんだ……格好いいっ)
近づいてくるその瞬間に胸躍らせながら、私は思った。
ベージュ地に赤のチェックで、ありがちなマフラーなのに、
先輩がしてるとものすごくおしゃれアイテムに見えてしまう。