ときめきパラノイア
「チエッッ!!」
誰かが教室に飛び込んできて、
大きな声でチエちゃんを呼んだ。
同じバスケ部の子みたいだ。
「なにぃー。どしたの?」
「体育館、体育館行こっ。大島先輩が、バスケして遊んでるんだよ!超爽やかだよ!」
「嘘ッ!行く、すぐ行くっ!」
チエちゃんが勢いよく立ち上がった。
大島先輩とは多分男子バスケ部の元キャプテンのことで、
ヒーローみたいにカッコよくて(ホントに冗談かと思うくらいベタに格好いい)、
ものすごく人気のある3年生。
この前引退してしまったから、もうあの勇姿が見れないのかと思うとバスケなんてもうやりたくない、とかチエちゃんがとんでもないことを言っていた。
チエちゃんを呼びに来た子は、
言うだけ言って先に走っていってしまう。
「香帆も行くよ!早くっ」
「えぇ?私も?関係ないのにぃー」
あまりに急かすから、慌ててお弁当箱をしまう。
のろのろしている私の手をがっしり掴ん
で、チエちゃんはダッシュで教室から駆け出した。
足の速いチエちゃんについていくのはかなり大変な事で、
体育館に着く頃にはもうよろよろになっていた。
別にお目当てでもない先輩を見るためにこんなに走らなきゃいけないんだろう。
チエちゃんのガッツには本当についていけない。
体育館には結構人が多くて、
2階のギャラリー席からは3年生の女子の先輩がきゃあきゃぁ言いながら応援していた。
下級生たちもギャラリー席にいたけれど、ひっそりとゲームを見守っている。
でも大島先輩が何かするたび、押さえ切れないように歓声が上がった。