ときめきパラノイア
「あぁ、いい場所がないっ」
そう言いながらもチエちゃんはうまく人の波を縫って、
出口付近のよく見える場所を陣取った。
ちゃっかりしてるというか、私にもこれくらいの強さがあったらな……。
バスケは3年生の男子だけだったけれど、
バスケ部の人だけじゃないみたい。
また大島先輩のいるチームに点が入ったようで、大きな歓声がフロアに響き渡る。
「………っ!!」
「……あぁっ!!香帆!!」
チエちゃんが私の腕を強く掴む。
私は何にも言えずにただ何度も頷いた。
皆のヒーロー、大島先輩と同じチームに私のヒーローがいた。
制服の上着を脱いで、シャツの袖をまくりあげている。
大島先輩が何か真柴先輩に話しかけている。
相変わらず真柴先輩は特にニコリともせずに、うなずいて何か答えていた。
「かっ、香帆、うちら的に超ゴールデンコンビじゃない?!」
「うんっ……」
先輩がこうゆう事するなんて、すごく意外だ。
教室の階の違う先輩とは滅多に会う機会がなくて、だからこそ私はあの朝の瞬間をこれ以上ないくらい大切に思っていた。
こんな、不意打ちに姿を見てしまうと心臓をぎゅっとわしずかみされたようで、
鼓動がびっくりするくらい早くなる。
「真柴先輩めっちゃ意外、バスケとかするんだ」
チエちゃんの言葉も周りの歓声も聞こえないくらいに、ただただ私は真柴先輩を見つめた。