そこに咲くかたち。
案内された席に座ると同時に、ゆいちゃんが言った。

「みさきさん…。」 

「ん〜?なに?」 

硬い表情にふと気付く。

「あたし…、もうしてないですよ。………『浮気』…。」 

「え?」 

あたしは真面目な顔をしてるゆいちゃんの言葉に、少し驚いた。

「もう……淋しい時、他の人に紛らわしてもらおうなんて、考えるのやめました。」 

「ゆいちゃん…。」 

「淋しい時、素直に『淋しい』とか『会いたい』とか…ちゃんと伝えてます。
もちろん、いつもいつも一緒にいられるわけじゃないですけど、でもよっちゃん…ちゃんと聞いてくれるんです。」

ゆいちゃんは、少しずつ表情が柔らかくなっていた。 

「次の日、朝から仕事でも…、眠いの我慢して『淋しいなら』って…電話切らないでくれるんですよ。……だから…あたしもがんばってるんだ。一人でも夜を過ごせるように…。よっちゃんが辛い時、支えてあげられるように…。」

ゆいちゃんは笑った。 


あー…
なんかこんな風に笑うゆいちゃん、初めて見たかも…。 



ゆいちゃん……
変わったね…。 








あたしたち…… 
ずいぶん頑張れたんじゃないかな?

前に…進みたくて…
一生懸命、見つめてる。



あたしは今、普通に事務の仕事をしている。
いわゆるOLで、もう、あの仕事に未練はない。

あの頃のように、好きにお金を使えなくても…。

ほしいものをいくつも我慢しても…。


お金を使えなくなった分、安いものを、それなりに、うまく使いこなすことを覚えた。


そうなる迄には、時間がかかったけどね…。



そんな『あの頃』を、あたしはもちろん人には隠すけど…、消したい過去ではない。



大切な大切な、あたしの生きてきた道のひとつだから…。

その『過程は』あたしの中に、必要だった時間だって思えるから…。




あの頃は…

キラキラしたあたしの大切な思い出。


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