そこに咲くかたち。
「よっちゃん!ちょっと!!」

「へ?ゆ…結衣?」

怒った顔つきになったゆいちゃんが、よっちゃんを引っ張るように、トイレの方に連れていってしまった。 

一瞬、二人きりになってしまう事に戸惑いを感じたが、ゆいちゃんが何故怒ったようになったのか想像がついたから、あたしは黙って座ったままでいた。 



沈黙が訪れる。 




周りのテーブルのにぎやかな声も、聞こえなくなっていく。 




緊張してるんだ…。 





なぜ、今、ここにももちゃんといるんだろう。 






あたしは沈黙が辛くて、ビールを2、3口飲んで…、ゆっくり口を開いた。 


「久しぶりだね…ホント…。元気だった?」 


隣に座ってるせいか、なかなか顔が見れない。 

でも、 
ゆっくり… 
少しずつ…… 


隣いるももちゃんの顔を見上げた。 


「……うん。……元気。」

そう言って、ももちゃんは優しく笑っていた。 


あの頃と少しも変わってないももちゃんの笑顔に、あたしの心臓はなぜか早くなる。
強く脈打つ。
見ていられず、あたしは目を反らした。 


自分の顔が熱くなるのを感じた。 





……ビールのせい…だよね…? 



嬉しくなりそうな心を、必死に否定した。 






「……愛希ちゃんは…?」

「………え……?」






愛希……“ちゃん”………?





壁が………。 







そこに、 
あたしの左側に、 


さっきまでは見えなかった…

見えていなかった 
『壁』が…、今確かに、目に映った。 







それは……
『過去』であることを認識させるには充分な、『壁』だった。

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