【プロジェクトXL】―480曲への挑戦―(残り388★)
『哀愁漂う親父と爪楊枝』
Lyrics By レイニーブルー
ただいまと 玄関を くぐる夜
おかえりと やわらかな お前の声
何十年と 繰り返してきた
何気ない 時間 心に沁む
あの頃は 日本中 みな飢えて
失った 何かを取り戻すように
追って追われて 果てぬ競争の中
ひたすら働く 自分に 酔った
この狭いアパートで
憚りながら
ひっそりと暮らしてた あの頃
爪楊枝で作った
小さな城を
手を叩いて 褒めてくれた
お前の横顔が 愛しかった
………
家庭など 顧みた ことはない
宝石の ひとつも やれなかった
苦労をかけた はずなのにお前は
いつの日も 静かに笑った
知ってたか あれは 願いを込めた
夢の城 二人で いつか住もうと
ヨタハチ スカイライン
その模型に
ひたすら ささやかな 夢を詰めた
猫の額ほどの 小さな庭を
毎日 お前は 整えていたな
野菜や花や樹々は 裏切らぬからと
主のいない 庭で今年も
きゅうりの 花が咲き始めた
………
ただいまと 玄関を くぐっても
おかえりと 微笑む お前はない
今年の 夏は 暑くなるそうだ
お前が 道に 迷わぬように
見事に実をならせた
きゅうりを切って
城を壊して 楊枝を刺した
コンクリートの床に
露がこぼれた
はじめて お前に触れた気がした
はじめて お前と出会えた気がした
No.3