100億光年先の君
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春色のスカートをはいた。
天気は良好。
風もない。
あまり色っぽいとは言えない薄い唇に、
買ったばかりのピンクのグロスをつける。
ラメがきらきらと光って、
あたしは何度も鏡の前で顔の角度を変えてみた。
チークがつきすぎてないか確認する。
大丈夫、とつぶやいて息をつく。
白とピンクでフレンチネイルにした爪、
薬指が少しはみ出しているのが気になる。
あぁ、
どうしよう、
やり直そうか、
でも時間がない。
マニキュアを落としてやりなおしたら、
今よりもっと失敗しそうな気がする……。
爪と時計を見比べて、あたしは立ち上がった。
少し早いけど、もう行こう。
このまま家にいたら、なんだか心がどうにかなってしまいそうなのだ。
電車に乗って3駅のところ、あたしと彼は待ち合わせをする。
駅からちょっと歩いて、桜の木が並ぶ土手。
ずっとずっと前からの約束。
あたし達の恒例行事。
冬が春に変わる頃、桜のつぼみがほんの少しだけ柔らかくなる頃。
あの川原に、2人で行こうねって、一緒に歩こうねって……。
あんなに嬉しかったのに、
あんなに楽しみだったのに、
どうしてあたしの気持ちは重いんだろう。
一歩一歩踏みしめるたび、憂鬱が顔を出す。
ふんわり広がるスカートが揺れるたび、
浮かれた気分が自信なさげに肩をすくめる。