初恋☆夜空
「ありがと」

お礼を言ってから母の方をみると、もういなかった。
その代わりに、トイレの戸がパタンと閉まるのが見えた。‥ちょっと、急いでたのかな?

「いってきまーす」

家を出る時に癖になってる言葉。
聞いてる人は、今はいないけど、そう言ってから玄関のドアを開けた。

夜の冷たい空気は、さっき帰ってきた時よりも冷たく感じなかった。



‥銭湯は、家から歩いて5分程のところにある。
外灯もけっこうついてる明るい道なので、一人でもこわくないし、すぐに自動販売機の明かりが見えてくる。
‥ほら、見えてきた。

ぼろーい建物に、白い看板。
『富士の湯』
入口の引き戸には、富士山の絵が描いてある。‥銭湯のイメージ、そのままな銭湯。私がちっちゃい時から変わらない…



銭湯入口の、男湯側のノレンの横に、誰か立ってる。

…男の人だ。
おとうさんより、背が高いかな?うつむいてるから、よくわからないかも‥。

夜なのに、ニット帽深くかぶってる。…あ、寒いからか‥。…こっち見……

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