ささやかではありますが
お隣さん《その2》


あたしの知らない椎名さんを観た衝撃はあまりに大きく、あたしはライブが終わると楽屋には顔を出さず、一目散に家に帰った。








パティシエのあたしの朝は早い。
椎名さんはあたしをライブに招待してくれた日の翌日の朝に帰って来た。
あたしが朝ご飯を作ってる時のこと。
朝方帰ってくると煩いんだよね、椎名さん。
隣のうちの部屋に響くくらいどったんばったん、さしずめ酔っ払ってるんだろう。
そのうえ廊下で何やら騒がしい。


『ほら椎名、ちゃんと立って!』

『やーだーあ。シュウが立たしてー』

『おまっ、こら、そこで寝るな!』


どうやらお友達か誰かを連れて来たらしい。
(というか、この様子だとその人が椎名さんを連れて来たという表現のが正しい)
本当にどうしようもない椎名さん、お友達も多分あたしみたいなタイプの人なんだろう。
筒抜けの会話をBGMに、あたしは仕事に行かなきゃなので、知らんぷりで朝ご飯の準備を着々と進める。


『てゆーかお前、鍵どこだよ?』

『後ろのポケットー』

『後ろ?…………無ぇんだけど』

『じゃあ知らんし』

『はぁ!?自分のことだろ!!』


うわぁ、すっごい嫌な予感ー…。
それでもあたしは朝っぱらから椎名さんに構ってらんないので、何にも聞いてないフリを決め込むことにする。
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