ささやかではありますが
『どうすんだよ椎名ぁー…』
『んー?うん、ここ寒いから華んちで寝る』
『誰?』
『隣の部屋の子』
来たーーー!!
朝っぱらから奇襲はやめて椎名さん!!
そう願っても虚しく、次の瞬間には、
『華ー、おっはよー!』
チャイムを鳴らすことすらせず、ガンガンガンガン、ドアを叩く音。
『バっカ、椎名!迷惑!』
『華ー、寝てるー?』
やばい、これはこれ以上放置してたら余所の部屋に迷惑がかかる!
パジャマ姿だけど、すっぴんだけど、そんなの気にしてる猶予はない。
あたしは覚悟した。
「椎名さん、煩いっ!」
「あ」
「おはよう華っ!」
あたしに抱き着くように、椎名さんは倒れ込んできた。
あたしはその重さによろめいて、ぺたんと玄関に尻餅。
猫のように擦り寄る椎名さんと、あたしと、その様子に動揺するは椎名さんのお友達。
「椎名っ、だから迷惑だって!」
「やだ、華んちで寝る!」
慌てて椎名さんをあたしから引きはがそうとするこの人…………思い出した、椎名さんのバンドでドラム叩いていた人だ。
確か、シュウさんって名前だったはず。
(ファンの子に、そう呼ばれてた)
あたしがなんにも言えず、無抵抗でいたら、シュウさんが、
「もー!お前やっぱ俺んちに連れてく!!」
あたしにべったりだった椎名さんを力強く剥がした。