ささやかではありますが
お隣さん《その3》
椎名さんは1週間前からツアーに出ている。
「来週の火曜からツアーなんだよねー」って、先週エレベーターで偶然会った時に言ってた。
正直に言って、今、あたしはとても平和です。



まず、いきなり椎名さんに奇襲されない。
最近は家にいる間も鍵をかけてるけど、例えば「お風呂入ろうかな…」って半分くらい服を脱いでからチャイムがなったりする。
慌てて服を着なおしてドアを開ければ、「いやー、華と飲もうと思って!」なんてにこにこ笑ってビールやら缶チューハイやらが入ったビニール袋を下げた椎名さんが。
別にいいんだけどね、ただ、大概あたしは翌日も仕事なもんで、セーブしながら飲まなきゃなんなくて。
一方で、どんどんイイカンジに酔っ払ってく椎名さん。
最終的に、そのままウチでパタンと倒れて寝てしまう。
ちなみに毛布はかけてあげるけど、ベッドは貸してあげません。だってあたしだって仕事があるから、ゆっくりベッドで休みたい。




…と、まあそんな騒動もなく、あたしは毎日、至極久しぶりに自分のペースで生活してた。
椎名さんがいつ帰ってくるかは分からない。
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