ささやかではありますが
受話音量が大きいのか。いや、流石女性ボーカルってところか。


「今…えっと、友達んちで…」


ちら、と椎名さんがあたしの顔を見た。


『ふーん。家、帰ってないの?』

「鍵、落としちゃってさ…」

『…そりゃ大変だね』

「ほんとだよ!」


聞いたらまずいこととか話すかな、仕事の話始めるかな、あたし席外した方がいいよね。
あたしがそっと立ち上がろうとした瞬間、


『その、送りの車ん中で落とした鍵、私が預かってるって言ったら?』


けらけらと笑いながら、美香さんの声。


「はぁ!?」


思わずあたしと椎名さんが同時におんなじ声を出した。


『あれ?もしかして女の子といる?私、邪魔した?』

「いやいや、邪魔じゃない邪魔じゃない!」


そんな全力否定しなくてもなー…別にいいけど。


『まあいーや。とにかく、私も疲れてるから、鍵必要なら取りに来てね』


美香さんはそう言って、「じゃーね」と電話を切ってしまった。


「…どうすんですか、椎名さん。今から取りに行くんですか?」

「うん、行ってくる。美香、あいつ怖いし」


ああ、なんか納得できる。
美香さんはすごーく美人さんだけど、男の人には絶対媚びない感じがするもん。
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