ささやかではありますが
哀しき召使
我儘で淋しがりな女王様と、そんな女王様に惚れ込んでいる頭が弱い召使のお話。
「直樹(なおき)さん、お風呂のお湯張ってきて」
敬称に“さん”を付けておきながら、なんたるぞんざいな扱い!
いいんです、どうせ“さん”なんて有っても無くても変わんないし。
いいんです、俺、頭弱いからこのくらいしかできないし。
そして重い腰をあげ、のろのろと浴室に向かう。
友人・未奈(みな)嬢が彼氏と別れて早3日。
俺にしてみたら未奈の我儘に耐えられなくなった彼氏が逃げ出したんじゃないかと思ったけど、未奈の言い分としては「私は被害者!」らしい。
「浮気ってね、恋愛法律における最大の罪でしょ?」
その罪に値する罰は決別と平手打ちだったようだ。
ご愁傷様、未奈の元彼。
俺は顔も知らないけど。
そんなこんなで失恋中の未奈に呼び出された可哀相な俺。
3日間、未奈の家に軟禁状態。
「だって独りは淋しすぎる」なんて言われてつい呼び出しに応じてしまったけれど、その口調の逞しさからは到底淋しそうになんて見えない。…なんて言えないけど。
それでも泣いてるかと思って行ってみたら、やっぱり別に泣いてなんかない。
言われた台詞は「直樹に慰めてもらおうなんて思ってないもん」。
その理由が、「直樹は頭弱いからあんまり気の利いたこと言ってくれなさそう」だそうです。
その代償として、「失恋の痛手を負って家事が手に付かない」と元気に言う未奈の身の回りのお世話をしてやってるわけで。