ささやかではありますが
椎名さんが美香さんに頭が上がらないの、分かるなあ。


「電車、もう無いですよ?」

「タクシー拾うからさ。ほら、華にも迷惑かけてらんないし」


ああ、迷惑かけてるっていう自覚はあるんだ?
尤も、その口ぶりから、普段の素行についてまでその自覚は及んでないみたいだけど。


「悪いんだけど、キャリー置いてってもいい?」

「いいですけど」

「ありがと!じゃ、行ってきます!」


椎名さんはそう言って携帯と財布だけ掴んで立ち上がった。






椎名さんがうちを出ていってから、あたしは気付いた。
キャリー置いてったってことは椎名さんはまたうちに戻ってくるわけで、すなわちあたしはそれまで眠れない。
現在の時刻、午前2時。
美香さんちがどこにあるのか、往復にどれくらいの時間を要するのか、あたしは知らない。
最悪なことに、あたしと椎名さんはただのご近所さんなので、椎名さんの携帯番号及びメールアドレスを知らない。
いつ戻るか皆目見当のつかない椎名さん。


「…しまったー!」


あたしは一人、部屋で叫ばずにはいられなかった。





END.
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