ささやかではありますが
その絶対な信用は一体どこから来るんだろう。
あたしは匠に何もしちゃいないよ。


「綺麗な顔の女なんて腐る程居る。金を持ってる女なんて腐る程居る。でも、それじゃ駄目なんだ」

「…まるであたしが美人じゃない上に貧乏みたいな言い方してくれますね…」

「あはは、失礼」


匠は指先にあたしの髪を絡ませて遊びながら笑った。


「…好きになってくれなくても、いいからさ」


不意に、目を伏せてあたしから視線をずらす。


「真紀は何も変わらなくていい。ただ、俺は真紀の為に…俺は、変わってもいい?」


不思議な言い回しに、そして、あたしが知っている匠はそんなことを言いそうにないから…目の前にいる人間が匠ではないような気さえして。


「…そんなこと言われて、好きにならない訳ないじゃん…」


匠はずるい。
きっとこうやって数多の女の人を口説いていいように利用してきたのかな、だとしたら、あたしも遂に匠に騙されるのかな。
そんな考えも過ぎるけれど、それならそれで、騙されてあげる。
……いや、「信じて」あげる。


「ありがと」


匠は微笑んで、唇を重ねた。
ふわりと触れるだけのその行為に、あたしはうっかり涙が出そうになった。
こんなふうに、最中の時以外にキスをするのは初めてだということを、匠は知っているのかな?
そして、あたしがそんなことを無自覚のうちに女々しく気にかけていたことに気付き、これはもう、きっとずっと前からあたしは匠のことが好きだったんだな…と。






END.
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