桜の木の前で
暫く席を外して部屋に戻ると真珠、いや瑠璃は桜を眺めていた。
やはり桜が似合うんだね。

静かに歩み寄る。

「ああ。起きたかい?」

ゆっくりと瑠璃は振り返り俺の姿を見つけると目を丸くして驚いた。

「あなたは・・・」

驚く表情をみて少し笑いながら自己紹介をする。

「俺の名前は泉里(せんり)。」

「泉里・・・?」

かみ締めるように呟く。
覚えてくれているか?

「ああ、そうだよ。」

「私を攫ったのはあなたね?」

だけど瑠璃は少し不安げに尋ねてくる。

「そうだよ。神社では狐に邪魔されてしまったけれどね。君の霊力を感じてあそこに行ってみたんだ。そしたら瑠璃がいたんだよ。」

平静を装い綺麗に笑ってみせる。
すると瑠璃が怒ったように叫ぶ。

「っ私を元の世界に返して!」

「元の世界って元々君はここに住んでいたんだよ?」

「え?あなたなにを言ってるの?」

瑠璃は心底驚いた表情を浮かべた。

「君は真珠の生まれ変わりだよ。」

「真珠・・・?」

「そう。俺が愛した唯一の女性だ。まだ思い出せない?」

思い出してはくれないのか?


「なにを言ってるの?私はその真珠さんという女性の生まれ変わりじゃないわ!」

きっぱりと否定する瑠璃。

「いいや。覚えていないだけだよ。そのピンクの瞳、その愛らしい容貌。まさに真珠そのものだよ。」

「でも私は瑠璃よ。」

納得行かないといった様子で呟く。

「きっとここに居れば思い出せるよ。」

「いいえ!私は帰るわ!」

そういって瑠璃は襖からとびだした。
俺は静かに後を追う。



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