シフォンケーキ
レシピを見ながらカスタードの材料をホーローの鍋に入れ、掻き混ぜながら煮詰めていく。
「丁寧なのはいいけど、もう少しペースアップしねぇと焦げるぞ。」
ってか、既に焦げ始めてますが。
「は、はいっ!ごめんなさい!」
慌ててヘラを動かす手を早めて、中身がびしゃっとコンロに飛び散る。
「・・・・」
「ご、ゴメンさない!ごめんなさい!」
俺が数分でこなす作業が安藤では数倍かかる。
失敗するたび涙を堪えて、それでも安藤は一生懸命だった。
手際は悪いけど、真剣な面持ちで料理と格闘している安藤は微笑ましくも、とてもステキだと思った。
「・・・クン、ありがとうね。」
シューが焼きあがるのをオーブンにへばりついて見守っていた時のこと。
突然の謝辞になんと返したものかと考えあぐねていると、安藤ははにかむみたいな微笑を見せた。
オーブンの中で不意に膨らむお菓子の生地のように。
ふわっと柔らかな微笑。
・・・・・・・あれ?
なんだろ。
今俺の胸も同じくらいふわっと膨らんだ気がした。
「梓クンってスゴイね。勉強とか運動だけじゃなくて、料理も出来ちゃうなんて。人気者だしホントすごいなぁ。」
「誉めすぎだろ。勉強なんか安藤に負けるし。人気者なのは綾人だし。料理は必要があって出来るようになっただけだし。」
俺達は並んでオーブンを見詰めていて、気がつくとかなりの至近距離に安藤が見える。