シフォンケーキ
皿を洗い終える頃、自室から綾人が姿を現した。
「オマエ・・・どっか出かけンのか?」
「あん?・・・・ああ、バイトだって。」
「は?今日はバイト替わったんじゃなかったのか?」
「違う違う。最終の人と替わったの。だから今からバイト。じゃ、頑張ってくるねぇ~。」
ええい!ちょっと待て!
横を見ると、既に安藤は挙動不審のカラクリ人形に成り下がっていた。
未遂とはいえさっきあんなことがあってさぞかし居心地悪いだろうが、そんなに俺と二人っきりが嫌かよ!?
つか、目当ての綾人が居なくなるんじゃ本末転倒ってやつか。
何にせよ、嬉しい状況ではないに違いない。
安藤の縋るような視線に気付いた綾人がニコリと天使のような笑みを浮かべる。
「夕食美味しかったよ。ありがとう。僕がお構い出来ない代わりはアズにお任せ。好きなだけ寛いでって、帰りたくなったらアズに送ってもらって。」
言いながらすいっと安藤に顔を寄せ、なにやら耳打ち。
安藤の顔は一瞬にしてトマトになった。
オロオロと視線を彷徨わせた挙句、恥ずかしそうに俯き、涙で潤んだ目で恨めしそうに綾人を睨む。