シフォンケーキ
涙目になりながらも何とかスイーツ兵器を飲み下し、ソファーに踏ん反り返ったところで、綾人がリビングに現れた。
「タダイマ」
「オカエリ」
何気ないいつもの挨拶を交わした後、綾人の視線がテーブルの包みに止まる。
「悪いな。腹減ってたんで貰ったぞ。」
「ふん?別に構わないよ。だって昨日からシフォンケーキ食い続けだし。」
女子ならきゃあと叫んで失神ものの無邪気な微笑を浮かべてみせる。
生憎、男だし既に見慣れて免疫のついた俺には何の効果も齎さないが。
寧ろ
「さすがに飽きたね」
と朗らかに笑う顔が忌々しくて仕方がない。
「だったら人前で迂闊な発言をするなよ」
綾人は特別シフォンケーキが好きなわけではない。
たまたま数日前は「美味しいシフォンケーキが食べたい」心境だっただけだ。
それを自分の影響力も弁えず人前でぽろっと零すから、ファンの子達からこぞって貢がれることになるのだ。
以前も、
「アイス食べたい」
などとほざいて、アイスクリーム屋が出来るほどのアイスが集まり、冷凍庫にも入りきらず始末に苦労したというのに、まったく懲りないヤツだ。
しかも
「うん。でも。数多のシフォンケーキを食べたけどやっぱりアズのが一番美味しかったな。さすが俺のお抱えシェフ。」
あ~・・・この天真爛漫な笑顔を一回、本気で殴ってやりたい。