占い師の恋【完】
私の、名前を
そんなに愛しそうに悲しそうに呼ばないで。
「妻と娘を捨てた男が、今更現れて罪滅ぼし?ふざけないでよ。
今まで何の連絡もして来なかった人が、何で私の名前を…、」
涙で前がよく見えない。父が今どんな顔をしているのかも、ぼやけた視界では何も分からない。
両手で顔を覆い俯く。
もう父との会話なんて無理だ。
自分でも分かる。
私が壊れるって、分かるんだ。
「…、ごめんな。」
か細く聞こえた声に暫くして開いたドアの音とそれが閉まる音。
勢い良く顔を上げたが、もうそこにあの後ろ姿はなかった。
玄関を出て行く父の後ろ姿に、あの時思った。
信じたら馬鹿を見るのは自分なんだって。
温かい家庭なんて、長く続くわけがないんだって。
ねえ、青…。
傍にいてよ。私、今。
一人は寂しいよ。
傍にいるって、言ってくれたじゃない。
何で、今、青はいないの…?