占い師の恋【完】
へらりと笑って目の前で手を振るのは、弟ではなく兄の方。
バイトはお休みを取っているはずの杉山さんだ。
予想外の人物の登場に動揺を隠せない私は、それを伝えるように眉間に皺を作り、杉山さんを睨み上げた。
すると。
「あーお。早くしろよ。」
「へ…、」
にっこり微笑んだ杉山さんは、階段に向かって声をかけると。
カンカン、と一定の速度で古びた鉄の階段を上がってくる音がうざったいほど耳に響く。
「やっぱ俺、スーツとか無理。襟首やたらと締め付けられる。」
「そりゃあ、スーツにはお決まりだろ。俺だってこんな堅苦しいもん嫌いだっつの。」
急ぎ足になることもなく。自分のペースでゆらり、危ない足取りで私達の方へ近付いて来る。