《完》天上のCANON 〜先生と奏でる、永遠のメロディ〜
もう何度もそうしてきた
ように、前のドアをごく
小さく開け、スルリと体を
滑り込ませる。



誰もいない空間で、悠然と
鎮座するピアノだけが、
あたしを迎え入れてくれてた。



あたしは吸い寄せられる
ように“彼”に近づき、
その椅子に腰掛ける。



そしてそっと、蓋を開けた。



(考えてみたら……あたしが
ここに座るのは、初めてだ……)



ここでは、あたしはいつも
聴く側だったから。



この椅子に座るのはいつも
久住先生で――先生は本当に
いくつもの素晴らしい音を、
あたしに聴かせてくれた――…。


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