【完】貴方が居たから。
見掛けだけで信じるんじゃなかった。



「帰るよ」



梢の腕を引っ張って立たせる。

ーーパシン…ッ

足を踏み出した私の頬には痛みが舞い降りた。



「章造…?」



「何してるんや、諏訪」



小春と紀斗さんの声。

頬を擦りながら顔を上げれば、諏訪さんが私を鋭い瞳で見下ろしていた。



「“最低”な。君も大人の事情も知らないで、よく言えたな」



「…だからって、殴られる理由がわかりませんが」



トラウマとでも言うのか。

耳が聴こえなくなったあの日の一撃が甦り、声が震えた。
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