DWD―デジタルワールドダイブ―
プロローグ
少女は真っ白な空間で様子を窺っていた。
床と呼ぶには相応しくない、影の出来ない足元の白を触る。
他に何も居ないであろう場所で少女はただ様子を窺い続ける。
「《……バックアップ出来そうか?》」
少女の耳に付いていた黒い機械から野太い男の声が漏れた。
男の声は壁を跳ね返る事をせずに少女の耳、そして空間へとしみ込んでいく。
地を触っていた手を離し、ゆっくりとした動作で立ち上がりながら黒い機械に手を添える。
黒い機械の表面にある黒いボタンを押すと、ジジッと電波が乱れる音がしてこちらの声を伝える準備が整った。
「思っていた以上に破損が激しい。私一人では難しいと思う」
「《そうか。なら、アイテムボックスに補助工具セットを送っておくから、それでどうにかやってくれ。送っている途中でバグられても困るし、一旦切ってから送るぞ》」
ぶつりと男との回線が切れた。
人差し指を左にスライドさせて、何も無かった空間にテレビゲームのメニューバーのようなものを出す。
【Item】と映る電子的なアイコンを指で触れると、少女の周りに長々とした文字の羅列が浮かび上がった。
ひとつひとつがアイテムの名前らしく、文字を目で追い男の指定した品名を探す。
「あ、そういえば緑のピクシー持ってるんだっけ」
探している途中でレア物が詰まってる文字列に目当ての物よりも、効率よく且つ効果的に問題を解決出来るアイテムを発見し、補助工具セットいらないかもな、と呟きながら【GreenPixie】という文字に触る。
触った直後に文字の羅列は少女の周りを急速回転し始め、頭から腰、腰から膝、膝から地へと下りていく。
しかし、下りていった文字は地へと吸収されて何の音も出さずに消えた。
普段ならば、地に吸収される前に足元に丸い陣が出て、陣の発光と共にアイテムが現れるはずなのだが、今回は反応が無しで終わってしまった。
空間が破損しているとアイテムは出ないのか、少女は異変をそう解釈して一度辺りを見回す。