DWD―デジタルワールドダイブ―
辺りを見たところで、何もない白い空間では境界の無い白い壁以外の情報はないだろう。
しかし少女は、自分の立つ位置から5メートル程の場所に常人では視認出来ないであろうモノを見つけた。
それは夏場に太陽の熱でアスファルトから出る湯気よりも透明の歪みで、そこに原因があると少女は確信した。
「ピクシーって高いんだよな。使わずに失くすのは勿体ないか…」
腰に巻いてるベルトに下げた短剣を抜き、歪みを目指して軽く投げる。
投げた短剣は歪みの一部に絡め取られて吸収された。
少女はその様子を見て僅かに眉間に皺を寄せた後に、大きな溜息を吐き耳元の機械を弄り男へ回線を繋ぐ。
待つ、という動作も無いうちに男が《どうかしたか》と回線を通じて声を発した。
「バグよりうざったいのが居る」
「《そりゃあ、ウイルスか新手の侵入者か?》」
「後者だ。気付かれていないと思ってアイテムを奪っているようだが、アクセスしている部分…ハッキングポイントがバグと同じ形で歪みを生じている」
情けないハッカーだ、と呟きながら男に"こちらの世界"の現状を知らせる為にメニューバーから【Camera】を選択しディスプレイタイプの薄いガラス板のようなカメラを取り出し歪みを撮影していく。