君がいるということ。
詩花は横にかけてある鞄を取りながら、「ぜってー教えねー」と臣を睨みつけた。
鞄にノートを放り込むと、魔法が解けたかのように、周りの景色が眩しくかたどられていく。
「うっわ。口わりー女」
「ごもっともですね」
「認めんなよ。ってか何やってんの?」
「見ず知らずの人に教えろと?」
臣は少し笑いながら、背中にかけてある大きな荷物を下ろし、詩花の隣の席のイスに座った。
詩花は臣の足元に置かれたそれを珍しそうに見つめ、臣の顔と見比べた。
「エレキ?」
「ちげー。クラシックギター。俺、エレキは好きじゃねーし」
「あっそ」
自分からふっかけた話題を一方的に切り、詩花は窓の外に目を移した。
男子とこんなにまともに話すなんて、中学校以来だった。
少女マンガとかによくある、トラウマとかじゃなく、初対面の男子との会話の仕方がよく分からないのだ。
中学校は小学校からの持ち上がりばかりで、気軽に話せたが、高校は持ち上がりどころか初対面しかいない。
「あんたはどっちが好き?」
そんな詩花の心境をよそに、臣はギターが入っている鞄を開け、ギターを出し、ピックを握る。