君がいるということ。
あやなは小さく息を吐き、小声で話し始めた。
「別にきっかけなんてないよ。ただ、詩花と妙に最近仲良いなあって思ってて、そしたらそれに嫉妬してる自分がいて、好きなんだなーって気づいたの」
「それだけ?」
続きが始まらないことにせっかちになり、優はせかす。
「それだけ」
「は? じゃーめっちゃ最近じゃん」
「残念でしたね」
あやなが照れくさそうに笑いながら、舌を出す。
「へー。で、それで詩花が気に入らないと」
その仕草に挑発されるがまま、碧は意地悪く聞いた。
しかしあやなは笑い始める。
「碧、少女マンガの読みすぎ何じゃないの? 現実にそんなのあるわけないじゃん」
「あ。そーですか。すいませんね」
碧が不機嫌そうに返す。
「大体詩花のこと大好きだもん。気に入らないとか、ましてやいじめるとか、もってのほかだよ」
「まあ確かに、詩花はいいやつやなあ」
優は笑ってしまうほど驚いた詩花との初対面を思い出した。
新しい上履きが仕事始めの挨拶のように歌う入学式。
優は近隣の中学校出身のため、同じ出身校の人が多く、入学式ながら五組のドア付近でたむろしていた。