君がいるということ。
碧は詩花の行動に納得しながら、「ごめんね」と言って、周囲に声をかけて場所を空けた。
あいた空間を詩花は居心地悪そうに通りながら、「かたじけないっす」とお辞儀をした。
それを聞いて優は、え? っと耳を疑った。
いくらなんでも顔と今の発言はあわなすぎる。
気づいたら優は詩花を呼び止めていた。
「あのっ」
詩花はブレザーのポケットに手を入れながら、きょとんと振り向く。
「何?」
「いや……。その……。名前は?」
「駿河詩花」
答えてくれたは良いものの、逆に自分の名前を聞いてくれない詩花に、優は戸惑う。
「あたしは……坂岸優。出席番号近いね」
「そだね」
どんなに会話を切り出してみても、詩花は乗ろうとしてくれない。
それよか、必死な優をあざ笑っているようにさえ見えた。
「詩花って呼んでも良い?」
「好きに呼んだらいーよ」
「じゃあ、私は優って呼んでくれる?」
いつの間にか優は詩花の機嫌を伺うように慎重に言葉を選んでいた。
詩花はそれに気付いたのか、ため息をついた。