君がいるということ。


「なんで?」

「なんでって……」

 そこで言葉に詰まる。

 呼び名に理由なんて……。と優は困惑した。

 詩花はそれを見て、もう会話の終わりを感じ、自分の席へと向かい始めた。

「詩花」

 それを拒否するように優は呼び止めた。

 詩花は顔色も変えないまま振り返り、一向に口を開かない優の変わりに口を開いた。

「作り笑いしてるってバレバレ。もっと周り見なきゃ。ここは中学じゃ無くて高校。新しい環境だって感じねーと、置いてけぼりくらうぞ」

 そして小さく付け足す。

「わかった? 優」

 ――わかった? 優。

 優は心に喜びを感じ、思わず笑顔になった。

 そして、ここは高校で、たくさんの楽しいことが待っていて、たくさんの違うものがあって、そして新しい環境なのだと気づいた。

 優は席につき、近いどころか後ろの席だった詩花にたくさん話しかけた。

 確かに顔と言動はちっとも違う。

 しかしそれがこんなにも素晴らしいものなのかと、冷たく見えて実は優しい詩花が、大好きになった。

 さらにまた出席番号が近い碧も混ざり、優の高校生活は出来上がったのだった。


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