君がいるということ。
意気揚々とした下足取りが、急にブロック塀の前で足踏みをする。
「ぜんたーい……止まれ!」
「いち、にっ、さん!」と言う声も付け足し、今まで続いていた無意味な行進が終わり、臣は後ろで自転車をひいて歩いていた詩花を振り返った。
道中、相当他人のふりをしてきたのか、詩花は臣からかなり離れている。
「我が輩はおうちである、でーす」
それに気づき、両手でブロック塀を指差し、大声で叫ぶ臣に、詩花は小さく、「帰りてー」と呟いた。
帰ろうとすれば無理矢理でも帰ることはできる。
しかし確かに臣が今やっているように、どこか場所を見つけて練習をしないと、大変なことになってしまう。
臣に無理矢理巻き込まれたにしても、ちゃんとやらなければならないという詩花の完璧主義が、詩花の中でもがいていた。
「詩花。早く来いよ」
悔しさに顔を落としながら、詩花は臣のそばに歩み寄った。
臣は下を向いたままの詩花の頭に手を乗せ、ポンポンと撫でると、ポケットを まさぐり、鍵を探した。
「ありゃ?」