君がいるということ。


 ズボンのポケットにあった手がブレザーのポケットに移動する。

 しばらくそこに滞在したあと、今度は肩にあるバックのなかを探り始めた。

「何してるん?」

 詩花は自転車をとめ、臣の鞄をのぞく。

 藍色の宇宙のようなそこには、ブラックホールのように物を吸い込んでしまう勢いがある。

 が、あまりにもスッキリし過ぎているため、その勢いは一瞬のうちに散っていった。

「少なっ!」

 自分から物事を切り出すことはあまりないが、何のためにバックを持っているのかわからないほど、中身は新品で売られているバックそのものだったため、詩花は思わず口をあけた

 。そしてそこにポツンとファイルが端に申し訳なさそうに立っている。

 詩花はバックを片手に持ちながらももう片手でまたポケットを探っている臣を一瞬見て、気づいてないことを確かめながら、ファイルをそっと取り出した。

 少し冷たい透明のファイルから、窓の向こうで手を振られているように黒の模様が見える。

 それは紛れもなく、詩花の作った歌だった。

 しかし少し違うのは、楽譜がピアノの楽譜ではないこと。


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