君がいるということ。
詩花は顔に出さないながらも、口をパクパクと動かし、自問自答をしようとする。
しかし一向に疑問ばかりで答えは返ってこない。
臣がどのような意図でこの曲を選んだのか、それは詩花には察することができなかったが、反対することも出来なかった。
書くだけ書いて、見直しもせず、ピアノで弾きもせず、歌詞も適当にあるがままを書いた。そのときの自分を捨てるように、放った楽譜。
詩花はもう一度裏返し、ファイルを持つ手に力が入るのをどうにか抑えて、まだあちこちを探している臣に気づかれないようバックにそっと入れた。
「だから何してんの?」
詩花が言うが、その声が聞こえないほど必死に、臣は終わりのなさそうな騒ぎを続けている。
詩花は、「シカトかよ……」と漏らしながら、今度はブロック塀に目を向けた。
今更ながら、高い。少し先を見ると、車が出入りするような低い広い門があり、その横にドアがある。
見上げると、大きな木が場所を奪い合うように茂っているような光景が、ブロック塀ごしながら見て取れた。
というか……。
「でかっ!」