君がいるということ。


 窓の外を見ていた詩花は、目を向けていただけで、その風景の中身は全く頭に入っていないことに気づき、不本意にも惜しみなく、臣の方を向いた。

「だから何で見ず知らずの人に教えなきゃいけねーんだよ」

 口を尖らせて言う詩花を見て、臣は朗らかに笑って見せた。

「んだよ……」

 その笑顔は詩花にとって、次の会話に繋げる方法を見えなくさせている根本の原因だ。

 しかし臣は気付こうともせずに詩花を見つめた。

「いやあ、わかりやすい奴だなあって」

 臣の以外な言葉に、詩花はポカンと開けた口から、「は?」と漏らした。

「俺のことを警戒してんのが丸わかり。男子との初対面に慣れてないんでしょ」

 しっかりと図星を打ち抜かれ、詩花は悔し紛れに唇を噛んだ。

「ほら、顔に丸々出てるよ」

「出てねーし!」

「ってか男の俺より口悪いって何者?」

 臣は相変わらず小さく笑いながら、ギターを構えた。

「ま、あんた素直そうだし。ちょっと俺の歌聞いてよ」

「ちょ! 何であたしが……」

 詩花の否定の声をさらに否定するように、クラシックギター独特の、リズムカルな音楽が始まった。


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