君がいるということ。


 詩花にはその声が、どこか遥か遠くから聞こえる気がした。

 詩花もこの時間の空が一番好きだった。

「よくそんな歯が浮くようなセリフを淡々と言えんね」

 窓を抜けて木を抜けて、校庭の周りのネットや民家などを越えて、その向こうにある空を見つめながら、詩花が嫌みを含めて言った。

「へー。あんたは言えないからこんな風に詩を書くわけ?」

「ばっ……!」

 詩花は勢い良く振り向いた。

 臣の手には詩花の鞄に入れたはずのノートが開かれた形で乗っている。

「てめっ! 返せ!」

 詩花は急いでそのノートをひったぐった。

 しかしその先には臣の皮肉な笑みが待っている。

「見た?」

「見た」

「どんぐらい?」

「そのページだけ」

 臣が開いたまま奪われた、詩花の手の中にあるノートを指差した。

 詩花は恐る恐る、その中を覗く。

「まじ無いわー……」

 思わず出てしまった言葉だった。

「悪いね」

 ちっとも悪びれていない、その臣の態度に、逆に怒ることがバカバカしくなり、詩花は溜め息をついた。

 その様子を見て、顔の前で合掌していた手を下ろし、臣は後ろを向いてギターをしまい始めた。


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