君がいるということ。
「下校時間だし、俺帰るわ」
とっくに下校時間を過ぎている時計を指差して、臣はギターを先程と同様、肩にかけた。
しかし詩花は返事をする事ができない。
そんな詩花を困ったように見つめ、臣はイスをしまいながら言った。
「あんた、名前なんて言うの?」
「……駿河 詩花」
「ふーん。俺、竹中 臣」
ノートを握り締め、相変わらず窓の外を見つめている詩花を少しの間見つめ、臣は後ろめたそうに教室を後にした。
臣が遠ざかる足音に詩花は集中し、いなくなったと確信すると、崩れるように机に突っ伏せた。
「んだよあいつー……」
ノートを見られた恥ずかしさと、見るすきを与えてしまった悔しさが、詩花の頭を痛いほど叩いた。
心臓の音にあわせて、後悔の念がズキズキと針のように胸を差し、苦しさに小さくもがいた。
胸を侵略しようとするその気持ちを抑え、顔を上げて、取り上げた瞬間にクシャクシャに折れてしまったノートを開いた。
今の気持ちを、言葉にしたら、どんな文章になるのだろうか。
そう思いながらペンを握っていたが、言葉には一向に出来ずにいた。