君がいるということ。
パソコンのスイッチを入れてから、勉強机の隣にある、壁と一体化したクローゼットを開け、制服から部屋着に着替えた。
そのせっかちな瞬間に、パソコンはしっかりと立ち上げられ、詩花が手を着けてくれるのを待っている。
詩花はイスに座らず、マウスに手を乗せると、左側に陳列したアイコンの中から、音符のマークのものをダブルクリックした。
カチカチっと言う音から少し遅れて、音符の色が変わり、画面が脱皮をしたように、新しい画面が現れた。
詩花は横にある電子ピアノのふたを開け、電源を入れると、パソコンデスクのイスには座らず、ピアノのイスに座った。
そう言えば、ピアノ以外で、学校で習ってない楽器を弾く人って初めて見たな。
詩花は竹中 臣の顔を思い浮かべながら、ピアノの鍵盤に、慣れた手つきで指を並べる。
ハ長調の音階をある程度なぞると、立ち上がり、ドアのそばに投げた鞄からノートを出した。
手に頼るようにぶら下がるそれを両手で支えると、折り目が一番強くついたページが自動的に開かれる。
今の詩花の心のような真っ白な紙をめくると、黒いペンでカラフルに塗られたページが現れる。