君がいるということ。
途端に臣の顔がもう一度頭をよぎる。
詩花は思わずノートを床に叩きつけた。
頬を叩いたような音を立て、ノートの表紙の固い紙がゆっくりと降りていく。
閉じられたそこには、NO.5と油性マジックで優しく書かれている。
詩花はこの文字を書いた時をふと思い出した。
新しい自分が新しく始まる瞬間。
自分の人生の足跡を撫でるように、ゆっくりと、自分をほめるような気持ちで書いた。
大事な、大切なノート。
まさか今日一日でこんなに乱暴に扱われるなんて、思ってもいなかっただろう。
詩花はそのノートを拾おうともせず、ピアノとパソコンの電源を切ると、ご飯の匂いに引かれるように、台所へと階段を降りていった。