君がいるということ。
一人だけ少し遠くの席の優を見ると、詩花たちに向かって携帯を太ももの高さで降っているのが見えた。
「何だって?」
碧が身を乗り出して携帯を覗く。
詩花はメールを開き、内容を小声で口にした。
「二人で楽しそうに話してんなよ。ずりーじゃねーか。だって」
「うっわ。くだらね!」
碧の声が聞こえたのか、優が声を出さずに、“くだらなくねーよ”と口を大きく動かした。
クラス全体の温度が上昇したように、全員が文化祭の事で頭がいっぱいになり、授業を聞いているのはほんの数人だけだ。
先生も諦めてしまったのか、目立ったことでなければ注意をしない。
文化祭実行委員は数式の代わりに、提出期限の迫った企画書と格闘している。
一部の女子は、こんなことをやりたいだの内装はこんなのがいいだのと数学のノートを落書き帳にし、男子は、ゲームの企画を考えることに必死だ。
文化祭に興味が無いのは私たちだけなんじゃないか……。
そう詩花が思った途端、授業と区切られた時間を締めくくるチャイムが鳴った。