君がいるということ。
「ふーん」
モテる、ねえ。そうは見えなかったけど。
詩花は夕日に照らされて輝いていた臣のギターを思い出す。
まるで波のような。起伏する聖女の寝息のような。場内に木霊する観客の拍手のような。何度も何度も繰り返されたあのメロディーが今はもう、蘇らなくなっていた。
方丈記の冒頭の“行く川の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず”と同じように、波も何度戻ってこようとも、決して同じ水ではない。
そんなことを思わせるメロディーだった。
何度聞いても、全てが違って聞こえ、でもしかし、耳には残ってはくれなかった。
「物好きって例えばどんな子よ?」
詩花は一向に動き出してくれない棒人間達に痺れを切らして、ペン軽く投げながら言った。
「あー……。一番有名だったのはあれだな」
「なに?」
「なんか、くらーい感じのやつに、わら人形渡されながら、“一緒に死んで下さい”って言われたらしーよ」
優は女の子のセリフだけ、リアルに演技をしてみせた。
「は!? それモテるっていわねーよ!」
「悪霊に取り付かれてんだ! 悪霊に!」
碧が腹を抱えながら、バンバンと詩花の机を叩く音を消すように、チャイムがゆったりとなった。