君がいるということ。


 不安定に浮遊する太陽が、地面に吸い取られていく。

 黄昏時。

 詩花はきつく閉めてあったカーテンを開け、ずっと向こうに見える光を全身に受けた。

 日直が消さなかった授業のあとが黒板に強く残り、男女の見分けが付かないほどの変な顔の落書きが、追い討ちをかけるように不気味に詩花を見つめている。

 詩花はその狂気に満ちた目を見つめながら、ぼんやりと頭の中の言葉を頭で考えていた。

 真っ白な広場に小さな光が見えるように曖昧なそれは、詩花の思考をさらに複雑なものにしていた。

 真っ白なノートの線を綱渡りする小さな粒。足を踏み外したり、線を揺らしてみたり、そのこまめな動きが一瞬ピタリと止まり、詩花をやんちゃな目で見つめる。

 詩花はノートを急いで閉じた。

 竹中臣。その存在が、昨日という価値のない日に、光を手向けていた。

 ノートを見られたからか。ギターを無理矢理聞かされたからか。理由も分からず、詩花の頭は、竹中臣を持ったまま凍結していた。

 思わず頭を抱えて机にうつ伏せる。

「んだよもー。どっか行けよー」

「……それって俺のこと?」

 臣がドアに寄りかかりながら詩花を見ている。


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