君がいるということ。
臣は詩花の返事も聞かず、礼儀正しくおいてあるノートに手を伸ばした。
「……って既に!?」
その気配を感じてか、詩花が急いで臣の手元を見ると、そこには既にノートが開かれていた。
「だー……もう……」
一回見られてしまったゆえの慣れか、詩花は諦めの気持ちを吸い、ムキになる気持ちをため息として吐き出した。
臣はそのノートにある文字を丹念に目でなぞっていき、ページを次々とめくっていった。
その目の動きは、アニメで鳥がトウモロコシを一列ずつ丁寧に食べていくのに少し似ている。
「もーいーかい」
「まーだだよ」
「ったく……」
不機嫌そうに頬杖をつき、詩花は眉に力を入れたままそとに目を移した。
木の葉に紛れてサッカーボールが行き来する。夏の日差しとは似つかないものに、夏を求めているように、半袖の男子が必死にそれを追いかけていた。
「なあ。詩花」
臣は外の世界に見とれている詩花をしばらく見つめたあと、詩花の思考に優しく滑り込むように、そっと声をかけた。
「あ?」
「“あ?”って……。ほんと口わりーよな」
「んだよ。喧嘩売ってんのか?」