君がいるということ。
「あんたの詩、歌にしたいんだけど」
開け放した窓から静かな風が吹いた。
開いているかもわからないほど無かった風が、続けて優しく吹き続ける。
もしもこれが運命的な場面なのなら、これを神風と人は呼ぶだろう。
しかし詩花も臣も、そんな非現実的なことに一切興味を示さない。
「……は?」
頭の中で黒板消しクリーナーの音が鳴り響いているほど真っ白な詩花の頭から生まれた言葉は、たった一文字だった。
「だめ?」
「だめも何も……」
詩花はノートと臣を見比べた。
「この詩、全部歌付いてるんだけど……」
驚かせてばかりの臣が、今回だけはうろたえた。
「え? 歌が? 誰が?」
主語さえ落ち着いて言えないのか、臣は聞きたい部分のみを極に短くして言った。
「あたしが」
「詩花が?」
「あーもー。いい加減呼び捨てすんなよおまえ」
「本当に詩花が?」
「やっぱ聞いちゃいねー……」
辻褄の合わない会話に疲れ、右に向きっぱなしの首を、一度元に戻した。
痺れるような感覚が、静脈を揺らして遊ぶ。
静かな風が、詩花の髪をかき分け、臣のギターにぶつかって砕けた。