君がいるということ。
First



 静まった教室。何かが始まるのではなく、終わったあとの静寂。

 掃除係が乱暴に消した黒板には、まだ薄く、白い粉が根気良くしがみ付いている。

 全開になっている前後のドアは、部活に急いだ生徒がどれほど多いかを物語っている。

 カーテンが微動もしない。風が無いのか、窓を閉めているのか。どっちとも取れる状況に、教室の冷たい空気がカーテンを逆撫でした。

 その窓の外の状況だけに留意すれば、この状況はなんともない、と言わんばかりに、駿河 詩花(するが しな)は窓の外を見ていた。

 時の流れに取り残されているように見える状況も、彼女には関係ないものなのかもしれない。

 視線の先にはグランドで練習している仲間はいない。

 まるで黄落するような夕日。それに虹色に染められていく木々や草花。

 詩花はそれを見ていた。

 帰り際、友達の誘いを断り、毎日見つめるその光景に、詩花は頬杖をつきながら、真っ白のノートに文字を書いていった。

 入学して一学期が平凡に終わり、夏休みもなんだかあっけないまま通り過ぎ、少し涼しい秋が訪れていた。

 耳を澄ますと軽音部や吹奏楽部の練習する音が聞こえてくる。

 別々の音が一気に聞こえ、なぜか心地よい新しいメロディが、廊下を走り回っている。

 詩花はページを半分ほど埋めると、帰る準備をして、教室を後にした。

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