君がいるということ。
「バカか」
詩花は臣のおちゃらけた態度に、思わず吹き出した。
緩んだその表情は、しかめている顔しか見たこと無かった臣にとっては、とても新鮮なものだった。
カシャっと言う音が瞬時に木霊した。
その音の発信源を見ながら臣が、「笑顔いただき」と言った。
「は!? おめー! 何撮ってんだよ! 消せ消せ!」
「消せるもんなら消してみな。もうロックフォルダに入れたから」
「まじないわ……」
もう二度と撮られまいと、詩花は顔を覆いながら臣に背を向けた。
白い携帯の画面に、詩花の顔がぶれずに映っている。
「俺天才」
その笑顔を見ながら、臣が呟いた。
「あたし帰るから」
臣の携帯に隠れていた詩花の姿が、上から飛び出してきた。
臣は携帯をどかし、結局使わなかったギターをしまい始める。
「俺も帰ろっと」
さっきまで肌色独特の光を放っていた手が、急に黒く変わったのを見て、臣は振り向いた。
詩花が電気のスイッチから手を離し、扉に手をかけている。
「あ! おい! 詩花!」
臣は急いで後を追った。