君がいるということ。
「なんで?」
バックに手をかけながら、上半身だけ振り向くその姿は、どこか逆行に当たっているように見えた。
暗がりで目立ち始めた電気の下に、二つの影がおぼろに浮かぶ。
「なんでそんなにあたしに構う?」
臣はそんなことかと肩を下ろし、余裕を見せながら言った。
「詩花の詩。すっげー感動した。それだけ」
「くだらね……」
詩花はそう言うと、赤らんだ顔を見せぬよう、周りに目もくれずに階段を駆け下りた。
臣は楽譜の事が頭をよぎり、舌を出した。
あの様子じゃ、持ってきてくれそうにない。
ふと、闇が増した窓を見ると、陸上部が門の前でタイムを計っている。
暗幕を後ろから押したように動く、人の影。
スタートの声がする。彼らが一直線に走り始める。
この、まだうっすらと暗い時間。街灯の光をたよりに歩みながらも、目は空を見つめ続ける。
明日がそこまで来ている。
まだ太陽の光を持つ部分は今日で、今から来る闇は明日なのだと。
そんな気がした。
街灯の光を見ていた臣に、ふと、違う光が紛れ込んできた。