君がいるということ。



「助けて……」

 気分が最高潮に達する昼休み。

 弁当を早々とたいらげ、話が盛り上がりの坂道をまっしぐらに上っている最中、詩花は一瞬で顔の筋肉を全て緩くした。変に力が入ると言うより、何とも言えない脱力感にみまわれたからだ。

 そんな人形のような詩花の顔面から発せられた消えそうな声を、碧と優は不思議そうに見つめ、老婆のように動く詩花の指の先に目を移した。

「詩花! ちょ! 急用!」

 そこには、臣が足踏みをしながら廊下の一組の方向と詩花を交互に見ている。

「なになに!? 昨日言ってたのはこういうこと!」

 即座に碧と優が食らいつく。

「うちらの知らねー間に……。詩花ずるいわー」

「野犬に懐かれたようなもんっす……。まじ助けてくれー……」

 無視をしようと取り繕うが、臣の、「詩花!」と呼ぶ声は一向に止まる気配がない。

 いつの間にかクラスにいる男女全員に注目され、黙っているのが辛くなってきた。

 女子はあることないことをブレンドし、噂話に花を咲かせ、男子は男子で、二人の関係を模索し始める。

「あーもー! 恥ずかしーじゃねーか! 何なんだよおめーはよ!」


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