君がいるということ。
大人たちが一番楽しい時期だと口をそろえて言う、高校生活。
しかし現実はそんなでもない、と詩花は廊下を歩きながら思った。
横を通り過ぎるメロディは、あまりにも早すぎて、詩花と並んで歩いてくれようとはしない。
高校に入ったら、たくさんやりたいことが増えて、彼氏ができて、毎日楽しくて。
そんな思い上がりな考えは、とっくの昔に消えてしまった。
実際は、やりたいことが増えるのは、それができる実力のある人だけで、彼氏ができるのは、可愛い子ばかりのグループのみ。
詩花は真っ白のノートを今までどおり持ち歩く。変わったことといえばノートの冊数ぐらいだろう。
誰かを思うわけでもない。誰かに思われるわけでもない。
ただ、太陽が引かれた線の上を歩くのを遠くでじっと見てすごす。それしか詩花に新鮮だと感じさせてくれるものは無かった。