君がいるということ。
「あのさー……」
喋り始めたと同時に、臣の手元が一瞬止まる。しかしまた思い出したようにきり始める。
そのあとの、リズムだけの効果音による沈黙が続いた。
その沈黙はチャイムによってかき消され、チャイムが終わったあとの生徒たちの授業の準備をする音で、さらに消されていく。
予鈴がなった今からの本鈴までの間、もちろん本当に本鈴まで時間をたっぷり使ったら遅刻になってしまうが、臣はその短い時間をフルに使う言葉を述べた。
「俺、バカだから、詩花に言ったこと全部冗談に思われちゃってるっぽいけど、全部本気だよ」
まだカードは臣の鋭い視線を受けたまま、しぶしぶきられ続けていた。
詩花は鬱陶しくなったのか、臣の手の中でくたびれているカードを、タイミングを見計らって奪い取った。
「彼女。って、あの子をあきらめさせるためてしょ?」
箱に乱暴に投げ込み、新品当時は固かったであろう紙のふたを、押し込むように閉めた。
「それは。うん。そう」
「やっぱおまえバカなだけだろ。そんなウソつくな。あの子に失礼だ」
「ごめん。でも……。でも、おまえの歌を歌いたいって思ったのは本当に、本当なんだ」