君がいるということ。


 本鈴のチャイムがなった。

 臣は急いでトランプの箱を開け始める。

「おい。おめー授業放棄か?」

 詩花が一応と言うように声をかけたが、臣は何も聞いていないようだった。

 マジシャンのように机にカードを広げ始める。

 周囲のクラスからはもう教師の声がしていた。

 臣の隣では、その席の女子が困ったように突っ立っていた。

「あ。ごめん。おい、早くどけよ」

 そんな状況をほっとけるわけにもいかず、詩花は臣の広げたカードを無理矢理片づけ始めた。

 ったく。何が楽しくて、何度もトランプを片づけてるんだか。

 臣はだんだんと綺麗になっていく机を見ても、今度は何も言わなかった。

 詩花がもう開かないでと言うほど綺麗に箱を閉め、臣に「あい」と渡すと、思いがけず、四枚のカードが返ってきた。

「それあげる」

 よこにいる女子にごめんねと、謝りながら、詩花の手元にあるそれを指差した。

「あ?」

 裏返しに手に乗ったそれを広げてみる。

 それはジャックのカードのセットだった。

「なにこれ」

「詩花は俺のナイトに任命されたから。それ、任命書の代わり」


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