君がいるということ。


 一方、詩花は不満を通り越して不機嫌だった。

「あんたぜってー普通に喋れるだろ」

 放課後、真っ先に五組に飛んできて、臣に捕まるであろう前に、予想外にも、詩花の眼中外の美咲に、一階の玄関の前の談話室に連れ出されていた。

 談話室と言ってもちゃんとした部屋にはなっておらず、横長い玄関と、校庭へでるガラス戸の目の前の廊下の余った部分に、無理矢理広いスペースと、そこを囲むように長椅子をくっつけたような場所だ。

 地面がカーペットで柔らかく、使われているのかわからない公衆電話がポツンと置いてあるそこは、ダンス部の活動場所となっていた。

 近年続々と部員が増え続け、廊下や、その向こうのチアリーダー部が活動している多目的ホールにまでその縄張りは及び、今詩花と美咲がいる談話室は、お世話にも居心地がいいとは言えない。

 さらに無駄に取り繕っている美咲の高い声と、ダンス部の数ヶ所からかけられるテンポの激しい曲があまりにもミスマッチ過ぎて、美咲の言葉を理解することさえ億劫だ。

「みいってよんでよお。あ、お嬢様のお名前は?」


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